夏になると木の幹に止まり、大合唱を繰り広げるセミ。幼虫の長い地中生活、成虫の短い地上生活の間に、彼らはいったい何を口にしているのか。多くの人は「セミは木の汁を吸うだけ」と思い込んでいるが、それだけではない意外な食の実態が最新研究や観察で明らかになっている。幼虫と成虫それぞれの食べ物、栄養の取り方や種類、さらには種類による好みまで、セミの“食べる”について知り尽くせる内容をお届けする。
目次
セミは何を食べる 成虫と幼虫それぞれの食性
セミのライフステージは「卵 → 幼虫 → 成虫」で構成され、幼虫も成虫も主に樹液などの液体を食べて生きている。幼虫は地中にもぐり、木の根から吸い取れる樹液を栄養源とし、種類によっては数年を要する地中生活を送る。最新の観察では、成虫になってからも木の幹や枝から樹液を吸うことで生命活動を維持しており、飛翔や鳴くためのエネルギーを補う役割がある。
幼虫(ようちゅう)の食べるもの
幼虫は土の中で過ごす期間が数年に及び、木の根から樹液を吸収して育つ。口吻(こうふん)と呼ばれる針のような口を根に刺して、ゆっくりと水分と糖分、微量の栄養素を取り込む。樹液は非常に養分が少ないため、成長は極めて緩やかで、脱皮も複数回を経て体が大きくなる。
幼虫期間の長さは種類によって異なる。日本のアブラゼミやミンミンゼミでは2~5年、ツクツクボウシでは1~2年程度とされており、環境や気温、木の根の豊かさによって変動する。
成虫(せいちゅう)の食べるもの
地中から地上へ出てきた成虫は、主に若枝や幹などから樹液を吸って生活する。口吻を木の皮のすき間に差し込んで植物の理管から液体を取り、その水分で体を維持する。成虫は飛んだり鳴いたり、卵を産むことなどが主な行動になり、「食べる」時間は限られている。
最近の研究では、特定種のセミの消化管に複数の植物種由来のDNAが検出される例もあり、成虫も意外なほど複数の木から樹液をとっている可能性が高い。幼虫の時に養分を蓄えておき、それを活用することもある。
液体食の仕組みと栄養の補助
セミは木の液体のみで栄養を得るが、この液は栄養が低く、特にアミノ酸やビタミン等が不足しがちである。そのため、体内共生細菌がこの不足分を補う働きをしていると考えられている。共生細菌は、セミの体内で樹液には含まれない必須アミノ酸を合成し、生命活動や鳴く行動、交尾、卵産みなどのためのエネルギー源を確保する。
また、成虫になってからは飛翔による体力消耗、捕食者から逃げるといった多くのエネルギーを使う行動が増えるが、これらにも共生細菌による栄養補助が重要な役割を果たす。
「樹液」だけじゃない?成虫が口にする意外なエサ
一般にはセミの成虫が樹液しか飲まないと思われがちだが、最新データや研究でそれ以外のものも口にすることが明らかになってきた。蜜や草の汁、水分補給、さらには花粉近くの液体など、成虫が多様な液体を利用する場面が観察されている。
ミツや植物の分泌液をなめる場面
樹液以外に、花の蜜や植物の分泌する汁、あるいは傷ついた木の樹脂や滲出液をなめるように摂取することもある。特に若い枝や木肌の薄い部分、または雨後に樹皮が割れて滲み出す液体など、甘みや水分が濃い場所を探すことが知られている。
ただし蜜取り行動が頻繁だとは言えず、主として水分補給や濃縮された糖分を得るための補助的なものである。一時的であり、樹液摂取の主要経路に比べるとごく軽微である。
水分摂取としての雨水や露
成虫は飛翔や鳴くことで汗に相当する蒸発や呼吸失調などで体内水分を失うため、雨や露、あるいは地表に溜まった水滴を口器で補給する場合もある。特に乾燥した日や気温が高くなった昼間など、水分補給が生命維持のために重要になる。
こうした水分の補給は樹液ほどは栄養を含まないが、体の脱水を防ぐために不可欠であり、観察では朝露の染みた植物の葉に止まって羽根を休めたり、水滴を舐めたりする場面が報告されている。
個体や種類による摂取傾向の差異
セミには多くの種類があり、樹液を好む木の種類や若枝・枝先・幹など、どの部分を吸うかに違いが見られる。日本の代表的な種類では、アブラゼミやミンミンゼミは比較的柔らかい樹皮を持つ果樹や広葉樹を好む傾向がある。
また、成虫の期間の長さや生息環境も影響し、街中の樹が限られている場所や、公園などの管理された環境では成虫がより若枝や薄皮部分を探すことが多く、人の気配の少ない里山などでは太めの幹を利用することもある。
日本での観察例と最新研究からみるセミの食べ物
日本国内でも多くの調査がなされ、幼虫時代から成虫になって以降まで、セミが何をどのように食べているかが観察・検証されている。最新観察では寿命や生長期間の詳細、樹液をどのように吸っているかの機構や摂取する植物の種類などが明らかになってきている。
観察データで判明した樹液吸収の長さ
日本各地で観察された研究によれば、アブラゼミやツクツクボウシなど一般的な種類では、成虫は羽化後およそ1〜4週間程度生きることが確認されており、その期間中、樹液を摂取する行動が続く。特にアブラゼミでは最長で約32日間樹液吸収を含む生活が観察されていた。これは従来言われていた「一週間程度の命」という俗説を超える寿命証明でもある。
また幼虫期間についても、数年にわたって木の根に口吻を刺し続け、土の中でゆっくり成長するというサイクルが数種類で確認されている。種類によっては地中生活が比較的短く、成虫期が長めのものもある。
好きな木の種類や樹液の質の差
日本の研究や園芸観察では、セミは柔らかい樹皮を持つ果樹(梨など)や若い広葉樹を好むという報告がある。例えば梨の木は、樹皮が薄くて口吻が入りやすく、若枝が多いことから成虫・幼虫双方にとってアクセスしやすく、食べやすい食場所となる。
樹液の出やすさ=木の生長期や気温条件とも関係しており、夏の盛りには多くの樹で樹液の流動が活発になるため、セミ活動が最も盛んになっている。
成虫のDNA調査でわかった多様な植物利用
海外の研究では、きわめて意外にも、成虫の体内から複数種の植物のDNAが検出され、多くの木から樹液を取り込んでいたというデータがある。これは成虫が樹液を得る際にも種類を選んでいること、あるいは一つの木だけではなく複数の植物を利用している可能性を示している。
日本でも観察・DNA解析を応用した研究が進行中であり、成虫がどの木から樹液を得るかという“食の選択”の実態が徐々に見えてきている。これによりセミの生態全体や樹木との関係性を理解することが可能となっている。
まとめ
セミは何を食べるのかという問いに対して、答えは「主に樹液と植物の液体」でありながら、幼虫と成虫では摂取場所や生活様式、摂取量・種類に違いがあるということである。幼虫は地中で木の根から樹液をゆっくり吸い、成虫は地上で幹や枝、若枝から樹液を吸う。さらに蜜や植物分泌液、水分補給としての雨露も頼りとなる。
種類や生息環境により好きな木や樹液の質に差があること、成虫期の寿命が以前考えられていたより長いこと、成虫が複数木の樹液を利用することなど、最近の観察や研究で新たな実態が明らかになっている。
セミをもっと身近に観察して、その「食べもの」を意識してみると、夏の虫たちの織りなす生態の深さが見えてくるであろう。セミはただの鳴き声ではなく、木々との絆で生きている。
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